ここからここまで個人の感想

赤坂のコインロッカーに海を見た話


音楽劇コインロッカー・ベイビーズを見に行く経緯とその後の記録。
8割が日記で2割が感想



2018年7月の休日、私はHDDの整理を行っていた。
音楽の日深夜枠放送分の録画を編集すべくA.B.C-Zさんのパフォーマンスを見ていると、橋本くんの声の調子が良くなさそうな事に気がついた。
橋本くん・河合くんの主演舞台のマチソワがある為、A.B.C-Zさんは深夜枠での出演になったという話はなんとなく聞いていたが、パフォーマンスにまで影響が出てしまうなんてきっと大変な舞台なんだろう。
一体どんな公演なのかと気になり、編集を終え、スマホの検索画面を開く。



コインロッカー・ベイビーズ



タイトルは知っていた。行動範囲内にポスターの張り出しを見たことがあるからだ。画面の雰囲気からあまり明るい内容ではなさそうだと思っていたが、あらすじを読むとなかなかハードな内容のようで、少し気になる。

ただ、既に東京公演は始まっている。流石に直前譲渡を張らなければ行けないかもしれない。チケットが売り切れていても宣伝はするものだからなぁなんて思いつつぴあの画面を開くと、ごく少数だがまだ座席は残ってるようだ。

もちろん楽日は完売だとしても、席を選ばなければ東京の土日公演もまだ買える。ACTシアターのサイズ感なら手持ちのオペラでも十分対応できるし、元から観劇するつもりのA.B.C-Zさんのファンの方ならもうとっくにチケットは抑えていらっしゃる頃だろう。それに、脇を固める役者さんも今までご縁があった方のお名前が多い。明日のチケットもまだ買える。行こう。

スケジュールを確認する段階で、公演期間の前半後半でハシとキクの役者が入れ変わる事を知った。メインでえびを追いかけているではないので一回で十分と思うも、キャスト交換を行う舞台は絶対に両パターン見るべきとTRUMPシリーズに学んだ私は、すぐにチケットを2枚抑えた。

結論、この教えは正しかった事を先に記しておきたい。有難う末満さん、お陰様で観劇に置ける心構えが出来ました。


数年ぶりの赤坂ACTシアターは座席がふかふかでストレスフリーな劇場だった。ロビーには関係者さんから贈られた色とりどりの祝い花。販売されるイメージドリンク。大判のパンフレットが置かれた物販コーナー。
華やかなところに来てしまったと場違いさを覚えるも、こそこそ座席に身を預けて無機質な舞台セットを見下ろして開演を待つ。






なんてことをしてくれたんだ。

観劇を終えて最初に頭に浮かんだ言葉がこれだった。一幕終わり、二幕終わりと同じ感想を抱いた。
果たして彼らに救いはあったのか、最後の場面はハシとキクに対する救済と解釈して本当に良いものなのか。そうだとしたらあまりにも残酷すぎるのではないか。舞台から発信されるエネルギー量と感情に対して全くもって思考が追い付かなかったが、とにかく私は面白い舞台を見たということだけは理解した。

おぼついた足取りで帰路に立ちながら、一人で舞台の内容を反芻する。
正直、ストーリーを完全には理解できていない。寧ろ半分理解出来ているかいないかというレベルだと感じる。
ハシとキクの人生に寄り添うような急転直下のストーリー展開。嫌な予感は全て当たり、誰1人として"一般的に想像される"幸せを手にすることは出来なかった結末。小劇場で見るアングラ舞台に似た息の詰まり方と生理的な嫌悪感を覚えた。

一回目の観劇では、とにかく舞台上から与えられたものをただ受けとることしか出来なかった。



7月下旬、キャスト入換後の観劇。
この日は初見の友人を連れての観劇ということもあり、初回よりは落ち着いて観劇出来、幕間にドリンクを飲む余裕すらあった。
ただ観劇後は友人も初見時の私のように荒れ、二人で居酒屋で管を巻いた。



観劇から一月以上経った今、ようやく冷静に考えられるようになり、やはり舞台としてはとても好みだったと感じた。

揺蕩うようなハシの歌声、強い意思を感じさせるキクの瞳、アネモネの芯が通った堂々たる振舞い、Dの底が知れない不気味さ、そして舞台全体を包み込むかのようなニヴァの包容力。強烈な個性で注目を集めるキャラクターたちが織り成す白昼夢のような舞台。何もかもが現実味がなく、ただひたすらに物語として存在していた。

最初に見たというのも大きいと思うけれど、私は河合ハシ、橋本キクのバージョンが好みだった。
ストーリーについては恐らく上手く書けないと思うので、本当に主演のお二人だけ。ぼんやりとした印象の感想。ニュアンスの話。



■河合ハシ
普段のテレビ出演から河合くんはトークと歌が上手い器用なお兄さんという印象が強くあった為、危うく繊細で壊れ物のようなキャラクターを演じることに驚かされた。
何かすがるものを掴もうと必死にもがく姿が痛々しく、常に満たされず乾きを感じていたように見えた。上手の2階席で観劇した為、何度か見上げてくる場面ではオペラ越しに目が合うような錯覚がして、思わず目を逸らした。
黄色のファーを身にまとって面会に来た場面からニヴァを刺すに至るまでの流れは見ていて苦しかった。
不安定な危うさの中に滲み出る艶っぽさは、大人のものというよりも、少年特有のもののように見える。
伏せた目の、頬に落ちる睫毛の影がやけに美しかった。


■橋本キク
かねてからお芝居が上手いとは聞いていましたが今までご縁がなく、最近のものではえびちゃんずーBL回とバブバブ選手権という癖が強すぎる回でしか拝見できていなかったのですが、実際に拝見するとその技量に感嘆しました。感情表現が細やかでとにかく丁寧。憑依型の役者さんなのでしょうか。本当に私が知ってる橋本くんと同一人物なのかと疑う場面も少なくなかった。
スカした姿勢と女の子に優しすぎない態度がカッコいい。アネモネの事は好きだけど、男の子らしくさらっとした態度でいるのがニクい。こんなの絶対に好きになってしまう。
何か大きな事を成し遂げるであろう希望を感じさせるヒーローという印象。


■橋本ハシ
眩しすぎる程に痛々しい純粋さが見ていられない少年。だんだんと狂っていく過程の表現が素晴らしく、気が付いたらもう取り返しのつかないことになっていた。
幼児性を保ちつつ狂気の渦に飲み込まれていくのが痛々しい。子供のような顔をしてDの紹介をして青い舌を歌う様子は見ていられなかった。
芝居の意図とは異なるだろうけど、あどけない表情で無自覚に他人を翻弄しているかのようにも見えた。
橋本くんのセンターとして愛される部分を上手く取り入れて、全く別のかたちに昇華されたキャラクターなのかな。誰でもいいからとにかく助けられてほしい、守られてほしい子だと思いました。


■河合キク
常に気を引き締めてキリッとした表情が記憶に強い。カッコいいに全振りした河合くんすごい、カッコいい。
河合のキクはハシに対する依存を特に顕著に感じた。魂の片割れを取り戻そうと奔走してるような感じ。本人が思っている以上にハシに対する感情が大きいのに、それを自覚していないようにも見えた。
キクのソロは感情全てをさらけ出すような曲に聴こえて、聴くのが辛いと感じた場面も少なくない。
ただ、アネモネソロを見ているときの表情が良かった。可愛いよねアネモネ



河合くん演じるハシは善悪や倫理観を学ばないまま大きくなった少年で、橋本くん演じるハシはまだ物心がついたばかりの小さな男の子のような印象を受けた。

ニヴァと寝る時、河合ハシは引き倒して、橋本ハシは抱き着くように押し倒してたのが面白かった。見間違いかもしれないけど印象的だった。


概念で語るざっくり感想ここまで。
キャストが変わるとキャラクターの印象までもがらりと変わるので、二回見に行けて本当に良かった。
ストーリーの読み込みがとにかく甘いので、機会があれば原作も読んでみたい。電子書籍に甘やかされてるオタクなので一旦図書館で探そう。本棚のキャパが限界なんだ。



今年の夏までジャニーズの舞台はきっと華やかで、2.5舞台とはまた違う方向性で若い女の子向けのコンテンツなんだろうなと思っていた。実際に見た感想としては、確かに華やかで豪華な舞台ではあったけれど、想像していたものとは全く違った。先入観だけでジャンルに対して決めつけた印象をもつのはやはり良くないと反省した。

恐らく原作の時点でだいぶ好みが分かれる作品だろうけれど、私にとってコインロッカー・ベイビーズは大切な作品になりました。

今回の舞台を拝見し、橋本くんも河合くんもとてもいい役者さんだと感じたので、是非またどこかでお芝居を拝見したい。
お二人のこれからのご活躍を心より楽しみにしております。